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第1回 風車 地域の未来 高知県大月町

【第1回】風車がつなぐ地域の未来

〜高知県幡多郡大月町編〜

目次

風車を生かす

  • 風車への道の活用
  • 地域の伝統を守る

地域を生かす

  • 地域の言葉で伝える
  • 地域の魅力を掘り起こす

双方を生かす背景とは

  • 風車×観光を生み出したプロセスとは
  • 地域の声には真摯に対応

未来の担い手と語る

  • 子どもたちと考える風車の活用方法

大月町での思い出の風景

写真提供:大月町観光協会

 エメラルドグリーンの海に吸い寄せられる。ここは高知県最西端の大月町。柏島のある町、といえばご存知の方もいるだろうか。
 しかし、大月町には他にも様々な魅力が作り出されている。その一端を担うのが、風力発電である。
 大月町にはグリーンパワーインベストメント(GPI)が運営する2つの風力発電所「大月ウィンドファーム」と「大洞山ウィンドファーム」がある。
 風車による景観問題が取り上げられることもあるが、大月町では町のいたるところから風車を見ることができる。風車の「観光資源化」に挑戦をしている町である。

風車への道の活用

 大月町観光協会の井本さんは、「これまで観光協会が関わる機会がなかった人たちとの繋がりが生まれた」と話す。大洞山ウィンドファームでは、施設内の安全上のルールを守ることを条件に見学会が行われており、「この道をウォーキングに活用できないか」という相談も寄せられているという。高齢化が進む地域にとって、歩きやすく整備された山道は、風車のある風景を楽しみながら体を動かせる場所でもあるようだ。風車は電気を生み出すだけでなく、人々が集い交流し、地域の暮らしを豊かにする新たな価値も育んでいる。

地元の小学校の資料に掲載されたウィンドファームを見せながら語る大月町観光協会の井本さん。

地域の伝統を守る

 大洞山ウィンドファームにある神社では年に一度、地域のお祭りが行われており、地権者の岡田さんは区長としてこのお祭りを取りまとめている。「昔はまさに獣道の草を刈りながら神社まで登っていたけれど、発電所内に道が整備されたことで今はだいぶ楽になった」と振り返る。お祭りの日だけでなく、普段から参拝者もあるという。風車建設に伴い作られた風車への道は、地域の信仰の場を守り、長く受け継がれてきた伝統を次世代につなぐ役割も果たしている。

大洞山ウィンドファームを背に、岡田さん(左端)と旅を共にした仲間たちとの一枚。

 せっかくの機会なので、私も風車を見学した際にお参りをさせていただいた。発電所内の駐車スペースに車を止め、草道を神社まで歩いて向かった。歩くこと5分で丁寧に手入れがされた神社が静かに姿を現した。小雨が降った後だったこともあり、幻想的な風景であった。
 岡田さんは、「昔は祭りといえば、だいたい相撲がつくもんでした」と懐かしそうに話してくれた。賑やかなお祭りの様子が想像できる。しかしコロナ禍や少子化の影響もあり、相撲行事はお休み中とのこと。地域の伝統を守り続けることは決して容易ではない。いつの日か、子ども達の元気な声とともに子ども相撲が見られる時が来ると良いなと思う。

神社の境内へ足を運ぶ。短い時間だったが地域の方々が大切にしてきた空気を感じることができた。

地域の言葉で伝える

 「発電所内でイノシシを捕獲した際には、地域の方もご招待して一緒にイノシシ肉を囲むこともありました」。大洞山ウィンドファームでメンテナンス業務を担当する長尾さんは、笑顔でそう話してくれた。日頃から月1回は地域を訪問して、丁寧なコミュニケーションを心がけていると言う。こうした積み重ねが、ウィンドファームと地域との信頼関係を育んでいる。風力発電を地域に根付いた資源にするためには、設備だけでなく、その土地で人と向き合い続ける人材が欠かせない。ちなみに長尾さんは高知の出身。地域の言葉で交わされる何気ない対話は、人と人との距離を縮め、相互理解を深めるきっかけとなる。そうした積み重ねは、事業者にとってのメリットにとどまらず、地域の人々が誇りを持って働ける環境づくりにもつながる。それもまた、風力発電が地域にもたらす価値の一つである。

風車の近くを歩きながら話す長尾さん(右)。風力発電と地域のかかわりについて、丁寧にお話しいただいた。

地域の魅力を掘り起こす

 道の駅の笹木さんは、大月ウィンドファームのあるむくり山のご出身。「グリーンパワーインベストメントの風車が立地する別の地域との産直交流が始まり、町の人たちの楽しみが増えました。どんなふうに開催したら盛り上がるか、従業員からも提案が挙がるようになったんです」と思わぬ効果を教えてくれた。さらに、「今年はグリーンパワーインベストメントさんのお招きで、東京の赤坂で産直販売を行いました。ミレービスケットの知名度が想像以上に高いことを知って、お土産品のラインナップを考える良い参考になりました」と新たな発見についても語ってくれた。風車をきっかけに広がったつながりは、地域産業にも新しい発想と活力をもたらしていた。

風車×観光を生み出したプロセスとは

 元町役場職員で「まちづくり推進課」として風力発電事業を支えてきた久松さん。最初に驚いたのは、風力発電の担当課が、まちづくり推進課だったことである。
 さらに珍しいのが、風力発電事業の話が本格化した際、まずは町の観光事業審議会で話し合ったという点である。近年、風力発電事業が観光産業と結びつくことは増えているが、風力発電をどう活用できるのか、地域の公的機関で話し合うことは稀であると思う。市民参加を研究する立場としても、審議会という地域の意思決定の場が新たな価値を生み出した好事例を発見できて嬉しかった。
 この審議会からの提言もあって、大月町の風力発電は定期的な一般開放が実現した。ところで、このコラムをお読みの皆さんは風車を見るのは簡単だと思っていないだろうか。確かに近くまで行くことは可能である。しかし、発電所なので自由に敷地内に入ることはできない。そこで大月町では、観光協会と連携し、警備員を配置し、来場者に誓約書の提出を義務付けるなどして大洞山ウィンドファームの一般開放を可能にした。この仕組みづくりの細やかな検討を支えたのが久松さんである。行政、事業者、住民の橋渡し役がいたからこそ、大月町ならではの風車×観光の取り組みにつながっている。

風力発電所の名前が記載された地図の前で久松さん(左)と。風車がまちに溶け込んでいる様子を発見することができました。
風車を目指し、発電所内を歩く参加者のみなさん。大月町を訪れた観光客が、のぼりを見て参加することもあるようです。大月町の見どころの一つにもなっています。(写真提供:GPI)

 実は、みなさんとのインタビューはほとんどが「青空インタビュー」。道の駅の前の食事スペースでお話をしていると、自然と人が集まってくる。地域共生にはいろんな人が気軽に集まって話す空間が必要で、道の駅はその重要な交流拠点になっているのだと感じた。

道の駅の開かれた空間で、インタビューに答える佐々木さん(左)と井本さん(右)。人と人とのつながりが生まれる場の心地よさを感じられました。

地域の声には真摯に対応

 順調に進められてきたように見える大月町の風力発電事業だが、もちろん課題がなかったわけではない。第1号案件の大月ウィンドファームでは、「農作業をする際に風車の音がビニールハウスを伝わって聞こえる」という住民からの声が寄せられ、事業者が対策を講じる場面もあったという。現在は解消されているが、その背景には、地域の人たちの話を丁寧に拾い上げ、取りまとめる人がいた。
 その中心となったのが、地権者の安岡さんである。住民の声に耳を傾け、時には現地に出向いて状況を把握していたというようである。地域の人たちの協力があったからこそ、早めに対応することができ、この経験を生かすことができたことから、第2号案件の大洞山ウィンドファームでは同様の問題は発生していないという。

大洞山ウィンドファームをバックに、安岡さん(左写真、中央)の存在があったからこそ、今につながっていることを実感しました。(右の上下の写真提供:GPI)

子どもたちと考える風車の活用方法

 最後に、これからの未来の主役である子どもたちとの出会いについても紹介したい。今回の現地視察では、大月中学校の中学1年生15名と一緒に風車を生かした地域づくりワークショップを行った。
 私が入ったグループでは、はじめに「スタンプラリーをやろう!」というアイデアが出た。スタンプラリーをシールでやったらいいんじゃない?だったらシールを作ろう、キャラクターをつくろう!お土産にクッキーはどう?という声が上がり、みんなが絵を描き始めた。「クラスで絵が得意な子がいるから、本当はその子に任せた方がいいのだけどね」と照れながら、自分で描いたクッキーのデザインを見せてくれた子もいた。また、「テレビで風車の前でバスケットボールをやっていたのを見た」という子は、風車を描いたオリジナルのバスケットボールを見せてくれた。

地元の中学生と机を囲み、アイデアを交わすひととき。風車がさらなる価値を生み出す瞬間に立ち会うことができました。

 話し合いの結果は、黒板にポストイットで貼ってもらった。その結果を見て、グリーンパワーインベストメントの井口さんは、「みんなのアイデアをすべては実現できないかもしれないけれど、可能なものは実現していきたい!」と語りかけた。その言葉を聞いた子供達はとても誇らしげだった。ワークショップの後には、「身近にありすぎてそんなに気にしてない存在だったけど、今回の授業で自分たちの生活を支えている大切なものとわかった」という感想も聞くことができた。

ピースをする生徒の後ろ、窓越しに映るのは風車。当たり前の日常の風景であるものの、話し合いによって、風車が彼らにとって、ちょっと特別な存在になってくれたら嬉しいなと思いました。

 自分たちの考えたことが実現するということ。それは彼ら彼女らの自信につながっていくのだと思う。「自分たちの地域は自分たちでつくることができる」という感覚は、風車への愛着だけでなく、いつか帰ってきたいと思える故郷への想いを育んでくれるのではないかと思う。

地元の中学生と、風車の3枚羽をどう表現できるかを一緒に考えて生まれた「風車ポーズ」。唯一無二のポーズが印象的な、思い出深いお気に入りの一枚です。

大月町での思い出の風景

シンプルに見えて、実は細かい技術革新の積み重ねで作られている風車。大月ウィンドファームに設置されている風車は現在では製造されていない三菱重工製です。日本の技術者たちが検討に検討を重ねて製造された風車は、少しレトロだけど、愛情たっぷりの雰囲気を醸し出していました。
地元の企業が製作したという風車の絵柄入りの手拭い(写真左)。地元の循環バスや地方創生計画の表紙にも風車が設置されていて、風車は町のシンボルになっています(写真右上)。最近開園したお花畑と風車のコラボ。季節によって様々な表現ができそうです。風力発電所見学には似合わないかもしれませんが、今回は風車柄の着物でコラムをお届けいたしました。(写真右下)
町の人から、「99%イルカが見える」と言われて柏島に行ってみたら、停泊している漁船の周りを何か黒いものがウロウロ・・そう、イルカが顔を出した。そこに住んでいるかのように、船の周りを行ったり来たり。とても幸せな気持ちになります(写真左上)。高知といえばカツオでしょう。もちろんカツオのたたきを塩、ポン酢などで食べてみましたが、個人的には塩がおすすめです(写真左下)。大月町に滞在の間、何度も道の駅に足を運んだが、その中で最高に美味しかったのが「苺氷り」。大月町の企業が特許を取得したいちご入りの氷をかき氷にして食べるのだが、道の駅の笹木さんが丁寧に仕上げたいちごおりはフワフワでとても美味しかった(写真右、提供:大月町観光協会)。
KASHINISHIというキャンプ場からは山の上の風車がバッチリ見えます。自然の豊かな空間で山、海、風車が一緒になった夕焼けの風景には希望を感じました。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次はどんな出会いが待っているのでしょうか。次回もお楽しみに!

風力発電の詳細情報

大月ウィンドファーム

所在地高知県幡多郡大月町
総出力12MW
風車数12基
運転開始2006年11月

大洞山ウィンドファーム

所在地高知県幡多郡大月町
総出力33MW
風車数11基
運転開始2018年3月

風車がつなぐ地域の未来について

「風車がつなぐ地域の未来」は、再生可能エネルギーと地域社会の関わりを現地からお届けする連載コラムです。風力発電と聞くと、技術的な話を想像しがちですが、立地地域には地域で暮らす人々の想いや歴史、文化、そして日々の営みがあります。本連載では、発電所そのものだけでなく、地域の方々へのインタビューやまち歩きを通じて、再生可能エネルギーが地域にどのような変化やつながりを生み出しているのかを紹介します。風車のある風景の先にある、人と地域の物語をお楽しみください。

筆者プロフィール写真

プロフィール

竹内彩乃(たけうち あやの)

東邦大学理学部准教授。市民参加・協働を専門とする。再生可能エネルギー分野では、地域と共生する洋上・陸上風力発電の実現に向けた対話のプロセスや仕組みづくりをテーマに、国内外で調査・研究を行っている。著書に『都市を学ぶ人のためのキーワード事典』(共著)および『風力エネルギーの疑問50』(共著)がある。

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